T-works第3回公演「愛する母、マリの肖像」

14時、赤坂レッドシアターでT-works第3回公演「愛する母、マリの肖像」 (脚本=古川健・劇団チョコレートケーキ、演出=高橋正徳・文学座)

 ウランやトリウムからの放射現象を発見し、これに「放射能」と名付けたことで有名なキュリー夫人。彼女の娘たちの視点から母親の公私の生涯を描いた作品。

 事前に舞台情報を調べていなかったので、一瞬翻訳作品かと思ったが、古川健のオリジナルではないか。よくできた舞台だ。登場人物の細かな内面に肉薄し、うまいなぁと思ったら演出は高橋正徳。「斜交」「かのような私」に次ぐタッグ。上質な舞台に仕上がったのもむべなるかな。

 母マリ・キュリー(山像かおり)が亡くなった後、その偉大な研究を引き継いだ長女イレーヌ(丹下真寿美)、物理学よりも文学に興味をもつ二女エーヴ(佐藤聖羅)は母の伝記を書こうとしている。

 彼女たちが回想する母。研究に没頭し、寝食を忘れる姿。一方で、子どもたちにとっては忌まわしい過去もあった。その5年前に夫ピエールを失い、14歳のレーヌと6歳のエーヴを育てていた43歳の時。夫の一番弟子で年下のポール・ランジュバン(福地教光)との不倫が大大的に報じられたのだ。ポールは妻と幼い子供4人の父。当時も不倫はゴシップの格好のネタ。2回目のノーベル賞を受賞した頃だが、新聞は「ポーランドからパリにやってきて科学で一山当てた貧乏女がフランスの善良な科学者の家庭を破壊した」と書き立て、自宅には石が投げられた。
「移民の不道徳女のためにフランスの善良な家庭が破壊された」「夫の死にも不倫が絡んでいるのでは」といった根拠のないウワサも流された。

 世界的な科学者として崇敬されるマリでさえ、「貧乏・外国人・女」という差別の前には無力なのだ。

 やがて第一次世界大戦。マリの研究が戦争に寄与する。
 発見した放射能の特性を生かしたレントゲン撮影によって疾病の早期発見。マリの「レントゲン車」は野戦病院を巡回するのだ。
 しかし、キュリー夫人もまた自分が発見した「放射能」によって命を奪われる。

 キュリー夫人の残した「初」はいくつもある。「女性初のノーベル物理学賞」「初の大学教授」「初の元素命名者」。

 古川はマリを通して、差別(民族、ジェンダー、貧富)や科学と人間の問題に光を投げかけ、その影を見る。

 マリが発見しなくてもいずれは人類は「放射能」を発見しただろう。平和目的であろうと戦争目的であろうと、それは人類の問題。

 イレーヌは夫のフレデリック(阿部丈二)と共に、1935年、「人工放射性元素の研究」でノーベル化学賞を受賞。エーヴもまた夫がユニセフ事務局長時代にユニセフがノーベル平和賞を受賞する。ノーベル賞一家。
 
 イレーヌは母と同様、放射能による急性白血病で58歳で死去。エーブだけが102歳まで生きた。

T-worksは丹下真寿美の才能を売り出すために作られたともいうが、その期待に応えるシャープな演技。

 キュリー家のパトロンとなったダニエル・リシャール役で辰巳琢郎。
 マリの友人でマリの不倫騒動の最中も献身的にマリを庇ったボレル夫妻。エミール・ボレル(大塚宣幸)とマルグリット・ボレル(前田友里子)。
 そして原子物理学の日本人研究者、山田延男役は佐藤豪。彼もまた日本帰国後、放射能の影響で早世した。

 不倫事件の際、ポールがなぜマリを愛したかを問われ、「同じ研究者としてベッドの中でも研究の話ができる」という意味の発言をしていたので思わずクスッとしてしまった。役者同士の夫婦もいつでもどこでも芝居の話をするんだろうな…。

 コロナ禍で公演後の面会謝絶が最近の演劇界の基本になっているが、山像さんとオープンスペースでご挨拶。劇作家としても活躍し、今回は役者として堂々の主演。才能は集中する。
 東京公演は15日まで。1時間50分。

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