唐組「吸血姫」

19時、新宿花園神社境内特設テントで唐組「吸血姫」(作=唐十郎、演出=久保井研+唐十郎)。

 前日に寺山修司のお墓参り、そして翌日が寺山さんを「兄貴」と慕った唐さんの31歳の時の作品を観るというアングラなGW。

「吸血姫」は新宿梁山泊が過去に2回上演しているが2回目の花園神社公演は確かお盆の帰省で観ることができなかった。

 江の島・愛染病院。看護婦・高石かつえは歌手デビューを目指し、国際劇場で歌うことを夢見ている。病院長浩三とマネジャー花形は彼女でひと山当てようともくろむ。

 一方、売血で生き延びてきた少年肥後守は天職を求め、花形に売り込みをかけるが、痛めつけられ追い払われる。そこに現れたのが、謎の引っ越し看護婦・ほおずき。彼女のトラウマは関東大震災。焼け出された人々、虐殺された朝鮮人…その姿が目に焼き付き、時空をさすらっている。

 死刑になった間諜・川島芳子の義父である大陸浪人・川島浪速。芳子に化身したほおずきは、父の子を妊娠する。このあたりは義父・川島浪速に犯された川島芳子を念頭に置いているのか。美仁音の軍服姿が凛々しい。
 肥後とほおずきの幻想流浪の旅はどこまで続くのか…。

 江ノ島の病院から東京・上野。関東大震災から幻の満州帝国まで、時空を超えた妄想譚。
 今見ると、ビットコイン騒動などを先取りしているようで作家の未来を見通す力に感服する。

 今朝のツィッターの言葉。
「たとえば小野小町の『花の色は うつりにけりないたづらに わが身世にふる ながめせしまに』も、西暦850年頃に詠まれたと言われているが、詠まれた約100年後に紀貫之が「これ好き」と言って古今和歌集に選んだり、さらにその約250年後に藤原定家が「みんな見て!」と百人一首に選んだり、数えきれない一人一人の「ファン」が語り継いできたからこそ今でも残り、その作品をもとにしてさまざまな派生作品が生まれたわけですね」(たられば氏のツイート)

 そう、作品が上演され続けるのは、観客と、メディア、評論家など「これが好き!」という無償の愛があってこそ。それによって作者、作品の命脈が保たれるのだ。

 1971年に初演されたこの唐十郎の想像力の産物、「誇大妄想」の物語もこうして誰かが上演することで新しい命が吹きこまれる。

 「あなたには聞こえなかったんですの? 大正12年、傷つき、倒れ、父と子にはぐれた女たちが、上野の山へ上野の山へ愛するものの名を呼びながら彷徨っていたあの皆さんの声が聞こえなかったんですの?」

「あそこには君の知らない都がある。君の知らない海がある。それは日本と大陸をつないでいる氷の海なんだ。月の明るい夜にその氷の海は、薄紅色に光り、その海に恋人たちはソリを走らせる。すると薄紅色の海は青くなり、もっと先にゆくとただ、真暗な海になる」

「あんたのお母さんの人形を見つけたのはこの俺さ。切り取られた胸に、ほおずきを2つ乗せると、夕焼に光って、それだけが焼けて古くなった君そっくりのからだに、夕方色の影をつくっていたっけ。この2つのほおずき、俺、これをあんたにあげる」
 
 劇詩人・唐十郎のセリフが真珠のように舞台にちりばめられる。
 
 愛染かつらは満州国最後の皇帝・愛新覚羅溥儀のことば遊びか。上野の池と凍てつく満州国を通底させる唐十郎の想像の翼。

 入り口で唐さんに挨拶すると、「おお」と目を合わせて微笑んでくれた。事故の後遺症は大分回復したように見えるが…。

 それにしてもこの舞台、「新旧」のアングラ役者が交差する舞台でもあり感慨深い。

 ブリキの自発団の銀粉蝶が、国際劇場で歌うことを夢見る看護婦・高石かつえ役。ブリキの自発団も活動を停止してもう20年近い。唐組の役者陣も舞台を観たことのある人はいないだろう。

 ”最後のアングラ女優”のキャッチフレーズで華々しい活躍をしていた銀さん。私は1981年の旗揚げ公演「ユービック」から最終公演まですべて観ている。銀さん、今も中劇場系の舞台で引っ張りだこだが、テント公演は初めてか。登場するだけで、にじみ出るオーラが違う。

 終演後の打ち上げで「結構いっぱいいっぱいなのよ」と言ってたが、なんの、まだまだ”最後のアングラ女優”は健在。

 そして「新」は唐さんの娘・美仁音と息子・佐助。
 謎の引っ越し看護婦・海乃ほおずき役で、人力車の客として登場する大鶴美仁音。すだれの陰に隠れて顔は見えないが、その清冽な声の響きに一瞬にして舞台の空気の密度が高まる。そして御簾を跳ね上げての登場。
 その「傾奇っぷり」、エロティシズム。凛とした佇まい。
 瞬殺で観客の心をつかむ姿は傾奇者・唐の血脈。

 そして少年・肥後守役の大鶴佐助。実は佐助の芝居は初めて観たのだが、そのセリフ回し、立ち姿、千変万化の身体操作、この役者は只者ではないと思った。それが佐助だった。
 おかしな言い方だが、「唐十郎が生まれ変わってそこで演じている」と表現したいほど、佐助の芝居は唐さんそっくり。唐さんのアングラ役者のDNAが細胞の隅々に確実に伝わっている。
 きょうは銀さん、美仁音、佐助の揃い踏みに感無量。
 ほかに、全原徳和、藤井由紀、久保井研、岡田悟一らが出演。藤井由紀は、拐われる人妻ユリ子。読売演劇大賞優秀女優賞受賞の実力派。肌も露わに熱演。

 打ち上げで及部克人氏、美仁音ちゃんとお話。

「小学生の時に観た新宿梁山泊の吸血姫で近藤結宥花さんがやったほおずきが印象に残って、前からやりたかった役なのでとても嬉しい」。美仁音にはテントがよく似合う。
 東京公演は5月27日まで。
 23時までテントでおしゃべりに花を咲かせる。何十年ぶりかの桟敷席で腰が痛かったがその痛さも忘れてしまう。

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この記事へのコメント

ひこ
2018年06月13日 09:53
佐助さん 肥後守でしたか?
病院長浩三では??

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