劇団俳優座「雪の中の三人」

 14時、六本木・俳優座5階稽古場で劇団俳優座「雪の中の三人」(原作=エーリッヒ・ケストナー。上演台本・演出=小山ゆうな)。
 「エーミールと探偵たち」「点子ちゃんとアントン」「飛ぶ教室」などで知られるドイツの作家ケストナーの「大人向け作品」を舞台化したもの。
 枢密顧問官で、銀行と百貨店と工場、鉱山、大陸をつなぐいくつかの航路も持っている巨大コンツェルンの総帥でもある億万長者エドワード・トブラー氏(森一)はある日、自己啓発の欲求に駆られ、自社が企画した旅行の懸賞に自分を当選させ、ホームレスの格好で超高級ホテルに乗り込む。付き従うのは下僕のヨハン(加藤頼)。
 一方、この懸賞にはもう一人、失業中の青年フリッツ・ハーゲドルン(田中孝宗)も当選していた。
 トブラーの娘ヒルデ(佐藤礼菜)が父に内緒でホテルの支配人キューネ(川井康弘)に「億万長者が貧乏人のふりをしてホテルを訪れるのでよろしく」と伝えたが、キューネがフリッツを大富豪と勘違いした事から、従業員、宿泊客を巻き込んだ大騒動に…という「取り違え」の物語。
 悪人らしき登場人物は支配人と従業員のポルター(松本潤子)くらいのもので、それとて勘違いが原因であり、厳しく指弾するほどの人物ではない。シェイクスピアの取り違え物語と同様に、登場人物の右往左往を楽しんで最後に大団円というお話。
「億万長者だけど貧乏人のふりをしている男=トブラー」「貧乏人だけど億万長者だと勘違いされている男=フリッツ」「金持ちを演じるように言われてそれを演じている男=ヨハン」の三人の友情の物語であり、根底には人を表面だけで判断する俗物たちへの厳しい風刺がある。フリッツは優秀な若者なのに失業しているのに比べ、金持ちの有閑マダムたちはのんびりと高級ホテルで休暇を楽しんでいる。
 だが、違和感もある。 
主人公は大富豪。金も権力も思いのまま。最後には水戸黄門的に印籠を振りかざすようなあまりにもハッピーエンドな物語。
 物語が書かれたのはナチス政権のもと、ケストナーは反ナチスを標榜しながらも亡命することなく国内にとどまり、厳重な監視体制の下で執筆活動を続けていた。
この作品もナチス政権下では出版が許さず、スイスの版元から変名で出したものという。
 ケストナーの孤独。「俺は友だちを1人見つけたんだ。やっと友だちを1人」というトブラー氏のセリフは意味深だ。
 意地悪い見方をすれば、これはケストナーの壮大な皮肉の物語ではないかとも思える。
 何の不自由ない大富豪が自分探しのために身をホームレスにやつして旅をする。愛娘の相手として貧しいが聡明な若者を添わせる。あまりにも物わかりのいい人。それを痛快な物語と単純に見ていいのだろうか。
 ナチスが実権を握り、すべての権力の頂点に立っている。ヒトラーが万能の時代。
 トブラーは権力者の象徴だ。万能感に満ちたその「物わかりの良さ、リベラルさ」にナチスの不気味さが逆投影されてはいないか。壮大な反語や皮肉が込められているのではないかと考えるのはうがちすぎだろうか。
森、田中、加藤の友情三人組の温かな笑い、回り舞台を使ったスピーディーな展開。佐藤、瑞木、安藤ら女優陣のコケティッシュな演技と華麗な衣裳も見もの。1時間45分と上演時間もちょうどいい。
  キャストは平田朝音(クンケル夫人)、坪井木の実(イゾルテ)、瑞木和加子(マレブレ夫人)、安藤みどり(カスパリウス夫人)、山田定世(ボーイ、雪だるま)、青山眉子(フリッツの母)
 30日まで。

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