文学座「一銭陶貨 〜七億分の一の奇跡〜」

紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで文学座「一銭陶貨 〜七億分の一の奇跡〜」(作=佃典彦、演出=松本祐子)
  
「ぬけがら」(2006年)、「タネも仕掛けも」(2012年)に次ぐ佃・松本コンビの第3弾。
 
 今回は技巧を凝らした前二作と違って、脚本、演出とも新劇作品らしくストレートで正攻法。
 
 
 物語は1944年。戦況の悪化で硬貨の材料の錫が不足、政府は代替案として陶器で一銭硬貨を作ることを決める。
 
 その製造依頼を受けたのが、愛知県瀬戸市の陶芸家・加藤嘉男(中村彰男)。
 陶器会社の井上(鵜澤秀行)の依頼を断れず引き受けたものの嘉男は気位ばかり高く硬貨製造に興味がない。
 嘉男は養子で、妻のトヨ(奥山美代子)に頭が上がらない。長男・和雄(亀田佳明)に陶芸の才能が受け継がれていたが和雄は応召され戦地へ。足が不自由なために兵役免除された二男・昭二(奥田一平)が陶貨の開発に取り組むことなる。
 しかし、試行錯誤を繰り返しても7億枚という大量生産化には程遠い悪貨しか出来ない。

 互いに憎からず思うお手伝いの秋代(平体まひろ)が昭二を手伝う。彼らに協力するのが陶工の次郎(高橋ひろし)と秋代の友だち、みつ(吉野実紗)。
 そんなある日、和雄が戦地から帰ってくる。片目片足を失くして…。
 
町工場の製品開発が直面した難問をどのように克服したかを描く「プロジェクトX」的な陶貨製造の苦難と陶芸一家の複雑な人間模様を交差させた作品。

 国策に翻弄される庶民の姿は、いつの時代も共通する。芝居を観た翌日に夕張市に行ったが、エネルギー転換で国策の石炭から撤退したため人口が10分の1以下になり、財政再建団体となった夕張市の姿がこの物語の人々と重なる。

 陶芸の才能や一人の女性をめぐる兄弟の屈折した感情、軋轢。亀田と奥田の演技対決が見もの。
女に生まれたために後を継ぐことができず、息子に託そうとするが、才能ある長男は戦争で傷つき二男には才能が欠ける。彼らを不憫に思いながら気丈に振る舞う母の懊悩を奥山が泰然と演じた。

明るく前向きな秋代を演じた平体まひろは去年の文学座公演「ジョー・エッグ」で脳性麻痺で天使のような少女ジョーを軽やかに演じた女優だ。まだ研究生。これからの文学座を背負う逸材だ。

戦時中には陶器で手榴弾を作ったという話も挟まれる。平和な時代には芸術品や生活品を作っていた町工場が軍需産業に変わる。漁船や貨物船が徴用されて軍隊に協力することになる。挙げ句の果てに戦死。

「一銭陶貨」が訴えるのはそんな戦争の時代への警鐘でもある。松本祐子の緊密な演出が冴え渡った。過去から現代につながる血の連鎖。過去と現代の登場人物を二役にした理由も腹に落ちる。

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