梁塵日記

アクセスカウンタ

zoom RSS 伊藤智生監督「ゴンドラ」

<<   作成日時 : 2017/07/12 02:40   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

 14時30分。 下北沢トリウッドで伊藤智生監督の映画「ゴンドラ」(1986年)を観に。それには偶然が重なったからであり、一つは、青森の地方紙「東奥日報」のWEB版で「青森県・佐井村を舞台にした映画の試写が30年ぶりに地元で行われた」という記事を読んだこと。そして下北沢でその映画が上映されているのでぜひ観てほしいという友人の森島さんからのメッセージをもらったこと。その二つが重なった。これは何としても見なくてはと万難を排して下北沢へ。
 上映が始まった瞬間、「これだよ、これ。こんな映画を観たかったんだ」と心の中で快哉を叫んでしまった。

 都会に出てきて3年。高層ビルの窓ふき作業を仕事にする青年・良と、心を閉ざす小学5年生の少女・かがりの出会いと道行き。
 高層ビルから見える豆粒のような地上に青い海原を幻視するする良。両親の離婚、いじめ、登校拒否…。母親(木内みどり)は売れない作曲家である夫(出門英)と別れ、自立する女。しかし、仕事のために留守がちで、かがりはいつも孤独。かわいがっていた小鳥の亡骸を葬る場所を探して町を彷徨う。二つの孤独な魂が引き寄せられるように出会い、良の故郷である下北半島への「道行き」となる。

 後半のロードムービー風の描写が素晴らしい。下北半島ロケが生きている。
 説明過多の最近の映画が見失ったものがここにある。それは「想像力」。
 夫婦の回想の諍いシーンはセリフが途切れ途切れにしか聞こえない。しかし、それがリアルに迫る。かがりと母親がシャワー室でケンカするシーンもいい。全裸の木内みどりが小学5年と取っ組み合いをする。これこそが裸の必然性だ。良の母親役の佐々木すみ江が風呂場で見せる裸もそう。わざとらしさがない。自然なのだ。
 
 この映画の何が素晴らしいかといえば、観る人に物語の半分を委ねていること。
 押しつけがましく主題を提示したりお説教めいたこともない。
 少女と青年の道行きも結論が出ないまま終わる。

 病気のために体が思い通りにならず、毎日海を眺めて暮らす良の父親役の佐藤英夫が渾身の演技。下北の漁師になり切っている。

 ブラインド越しの母と娘の相克、父親の象徴としてのハーモニカ、廃船、厚い瓶の底を通して見える少女の心象風景、仏ヶ浦の岩場…。
 シーンの一つひとつが愛おしくよみがえる。
 そして良とかがり。この二人が映画の中で生きている。
 かがり役の上村佳子は実際に小学低学年から不登校児であったという。「不機嫌な少女」は作りものではない。撮影は順撮りだったそうで、佐井村でのシーンで表情に変化が生まれている。まさにドキュドラマなのだ。
 青年・良役の界健太は元演劇集団円の研究生。これが映画デビューだが、ピュアな青年役はもしかしたら彼しかできなかったのではないか。
 つまり、この映画はひとつ間違えると、別な映画になってしまう。
 少女を家に泊めて二人が枕を並べて寝るシーンがある。このシーンで観る人に妄想を抱かせるようでは、この映画は成立しない。青年の純粋性を内面から表出させる役者でなければだめなのだ。
 その意味で、この映画の奇蹟的な出来栄えの最大の要因は主人公二人のキャスティングに尽きる。
 
 ああ、こう書いていながら、もう一度観たくてたまならくなる。映画の登場人物に会いたくなる。この郷愁にも似た思いは何だろう。

 
 観終わった後、もう一度「すぐに観たい」と思う映画はほとんどない。
 記憶にあるのは高校時代に観た藤純子主演の任侠映画「女侠伝シリーズ 鉄火芸者」と「燃えよドラゴン」くらい。二本とも翌日すぐにまた観に行った。両方とも純然たるエンターテインメント映画だ。
 最近では「あいときぼうのまち」を間を置かず3回観た。
 テレビではNHKの佐々木昭一郎演出「四季 ユートピアノ」を観て、あまりの感動に翌日NHKに電話したら佐々木さん本人が電話を受け取ったのだった。
 何度でも観たいので再放送時にベータデッキを買うという条件で電気屋さんに「四季ーー」を録画してもらった。1980年のこと。ドキュメントとドラマが錯綜するドキュラマ=劇詩の手法は1960年代から始まったが、佐々木昭一郎は1963年に「都会の二つの顔」でラジオドラマにおけるドキュラマを試み、65年に「おはよう、インディア」、テレビでは69年に「マザー」、そして「さすらい」(71年)、「夢の島少女」(74年)…と独自の世界を作ってきた。
 そんなわけで、伊藤智生監督の「ゴンドラ」を観た瞬間、佐々木昭一郎の世界を思い浮かべてしまった。是枝監督も佐々木フォロワーズであり、もしかして伊藤監督も…と思ったが、それはまったくの思い違いだった。
 伊藤監督が師事したのは森崎東監督。「黒木太郎の愛と冒険」がドキュメントとドラマを融合させた映画であり、伊東監督はその主演俳優だった由。佐々木ドラマに影響? というのは私の思い違いだった。

 映画が終わった後、伊藤監督が来場していたので立話のまま感想を述べたが、どうにも去りがたく、近くの喫茶店にお誘いして話の続きを。
 伊藤監督はこの映画の後、AV監督に転身したのだという。そこで伝説的な監督としてな名を成した。映画の借金も返し終えた。
 頓挫していた第二作も28年ぶりに始動するという。

 その第二作が待ち遠しい。
 「ゴンドラ」は高層ビルの窓拭き作業用の乗りカゴでもあるが、「小舟」をも指す。
 高層ビルで良が乗っていたゴンドラは下北の海に浮かぶ磯舟でもある。
 映画に出てくる朽ちた磯舟を見たら思い出が洪水のように押し寄せた。
 父と乗った・祖父と乗った磯舟。

 仏ヶ浦をこれほど詩情豊かに撮った映画は見たことがない。
 28年前の下北の風景がこの映画に閉じ込められている。失われた故郷への哀惜に満ちた映画でもある。
 
 
 

 
http://www.amazon.co.jp/%E5%AF%BA%E5%B1%B1%E4%BF%AE%E5%8F%B8%E3%81%AB%E6%84%9B%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E5%A5%B3%E5%84%AA-%E6%BC%94%E5%8A%87%E5%AE%9F%E9%A8%93%E5%AE%A4%E2%97%8E%E5%A4%A9%E4%BA%95%E6%A3%A7%E6%95%B7%E3%81%AE%E5%90%8D%E8%8F%AF%E3%83%BB%E6%96%B0%E9%AB%98%E3%81%91%E3%81%84%E5%AD%90%E4%BC%9D-%E5%B1%B1%E7%94%B0-%E5%8B%9D%E4%BB%81/dp/4309272169/ref=gfix-ews-form

月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
人気ブログランキングへ
伊藤智生監督「ゴンドラ」 梁塵日記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる